[戻る] |
<質問> いわゆる美人局(つつもたせ)として知られている兵法三十六計にいう「美人計」の本質的なところについてお聞きしたいと思います。 一般的に、男女を問わず、自分の好みに合った異性に対しては、湧き上がる恋慕の思いに逆らい難く、それまでの修養とか自己形成の努力も崩れやすいものであります。 そして、その思いが高じると、遂には冷静・客観的な目が眩んでしまい、はたから見ていると、自分だけの感情が先走り、無意識に主観の世界にのめり込んでしまい、自らの客観的思考が機能しなくなり、麻痺した上で、主導権を喪失し、相手に操られているということになります。 しかし、よく考えてみると、結局、人間というものは、太古の昔より、およそ倫理とか道徳をはじめ、心や情のコントロールにおいては、ダーウインも驚くほど進化していないということであり、まさにそこに美人計の「計」たる所以(ゆえん)であると思います。 言い換えれば、この「神ならぬ人間の本源的な弱さ」を知ることが詭道や伐攻を計る上で、最も肝要なことと考えますがいかがでしょうか。 <回答> 一、高邁な理性よりも低級な感情で動くのが人間である。 まさにご指摘の通りであると思います。言われる通り、人間の知能や道具の目覚しい発展に比べて、人間の感情レベルのコントロールは一向に進展していないようであります。 言い換えれば、万物の霊長などと偉そうなことを言っても、人間は案外と低級レベルの感情で動かされるということであります。いわゆる「酒・女・金」であります。そのゆえに、古来、その人物の如何を判断する方法として故意に女を近づけさせ様子を見るということが行われて来ました。 日本社会の場合、残念ながら組織の上層部に行くほど「酒・女・金」に弱いという傾向が強いようです。多くの場合、このような方々は、人格識見に優れ仕事の実力で出世したというより、単にゴマスリ・太鼓持ち・茶坊主的な特技が(口に苦い良薬よりもそのような人を好み勝ちな)時のリーダーの琴線に触れ取り立てられたに過ぎないからであります。 角度を変えて見れば、このような「カバちゃん」的な人物も広い意味での美人計といえるのかも知れません。 ともあれ、このような人物に限り外見ではいかにも立派そうな人物を装い、口先では偉そうなことをいうものです。言い換えれば、たとえば『辞の強くして進駆するものは、退くなり。』<第九篇 行軍>のごとく、基本的に人の言葉と行動は異なるのが普通であり、そのようなものに騙されてはならないと孫子は曰うのであります。 逆に言えば、そのような人を籠絡(ろうらく)しようとすれば、『その備え無きを攻め』<第一篇 計>の原則に従い、最も動かされやすい「酒・女・金」を活用するということになります。 つまりは「三国志演義」にいういわゆる美人局(つつもたせ)であり、「三十六計」の第三十一計にいう美人計であります。 結局、人間というものは他人に騙される前に、みずからの心(欲望)に騙される動物であります。我々が人生を顧みてホゾを噛むのはまさにそこに起因するといっても過言ではありません。 二、孫子の曰う『己を知れ』の真意は、先ず自分自身に騙されないことにある。 孫子兵法は、その人の虚に付け入ることを基本とするものでありますが、そのゆえにこそ、人に騙される前にまずみずからに騙されない人間たれ、すなわち「己を知れ」と説くものであります。 このことを自覚して初めて「彼を知る」ことができると曰うのであります。孫子は単に詭(いつわ)り詐(あざむ)くのが良いと曰っているのではありません。 まさに曹操の曰うがごとく「孫武の著(しる)すところは深し」ということであり、山鹿素行が「兵法の奥義は己に克つにあり」と説く所以(ゆえん)であります。 ※【孫子正解】シリーズ第1回出版のご案内 このたび弊塾では、アマゾン書店より【孫子正解】シリーズ 第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。 http://amzn.to/13kpNqM ※お知らせ 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、次の講座を用意しております。 ◇孫子兵法通学講座 http://sonshijyuku.jp/senryaku.html ◆孫子オンライン通信講座 http://sonshi.jp/sub10.html ○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内 http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi ※ご案内 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。 http://kodenkarate.jp/annai.html |