[戻る]
質問 <第十一篇 九地>の呉越同舟について教えて下さい。  2006.11.15

<質問>

 一般的な『呉越同舟』の解釈は、利害の対立する者同士が、お互いに乗っている舟が、このまでは、沈んでしまうので、自分が死なないために、ここは一時、小を捨てて大を取ると云う大人の発想で、敵とも手を握ってこの場をしのぐという目先的な考えになっていると思います。

 しかし、本当に必要な考え方は、『常山の蛇』を可能とすることを言っているのであるから、『呉越同舟』という言葉を自分で変に専門用語化せずに、引っかからずに、むしろ、リーダーとしての組織の管理・運営の最も高度なところ(善く兵を用うる者は、手を携うること一人を使うが若くなるは、已むを得ざらしむればなり)を云うものと弁(わきま)えるべきであると思います。

 ここから、思うのですが、凡そ組織たるもの、本当の姿とは、一枚岩の鉄の団結を実現することは、非常に難しい問題であり、人に欲望がある限り、味方組織の中にも利害関係は存在し、敵よりも味方の中にこそ、敵よりも手強い敵が居る…という現実があり、この現実の問題をきれいに快刀乱麻を断つ如く処理することを本当は言っているもの、と考えても宜しいでしょうか。


<回答>

一、孫子はその背後にある思想を学ぶことが重要である。

 まさにご理解の通り『呉越同舟』も『常山の蛇』と同じく、あくまでも一つの例示であります。肝心なことは、そこに提示されている外形的な現象ではなく、そこに隠されている本質的な考え方は何かということであります。

 それを学ぶことが孫子の勉強であり、そこに孫子の真の価値があるわけであります。巷間よく目にし耳にするがごとく、単に孫子の(思想ではなく漢文としての)文言や喩え話をもっともらしく解説することは孫子の紹介であり入門に過ぎません。

 孫子は確かに中国古典の一つではありますが、軍事を論ずるその本質はまさに弁証法的思考であり、現状変革の思想です。その思想を語らずに、右から左に直訳しただけでは(日本語として)いくら名文・美文であってもその本来の目的とは明らかに乖離するものと言わざるを得ません。

 そのようなものをもって、孫子を理解したがごとく思い込むのは、本質的に物を考えようとしない、あるいは疑問を持とうともしない日本人の民族的欠陥の表れと解すべきであります。

 ただこれ以上の内容は、当塾のオンライン通信講座の内容にも関わってきますので、ネット上で解説するわけにはいきません。予定されているインストラクターのコースの中で個別にやりたいと思います。ご了承いただければ幸甚です。


二、戦国武士道と『呉越同舟』との関係。

 ご質問の後半の部分に関しましては、そのようなご理解でよろしいと思います。要するに、戦国最強を謳われた彼の武田軍団のごときものであります。

 すでに別な項で述べた如く、殺戮をこととし「切り取り強盗は武士の習い」とする江戸期以前の戦国武士は、まさに『兵とは、詭道なり。』<第一篇 計>を地で行く世界に身を置くゆえに、他人に騙されること、自分に騙されることを最大の恥辱と考えて、そうゆう罠に陥らないように日々心掛けて修練を積み、その上を行くのが戦国武士道の誇りと考えていました。

 その戦国武士をして、織田信長には仕えたくないが、武田信玄の下なら喜んで働きたい、もとより死ぬことも厭(いと)わないとまで言わしめたごときものであります。

 而して、その根底にあるものは何か、そこに孫子を学ぶ所以(ゆえん)があるのです。逆に言えば、信玄の信玄たる所以のメルクマール(標識)は、まさに孫子にあるということです。


※【孫子正解】シリーズ第1回出版のご案内 

 このたび弊塾では、アマゾン書店より【孫子正解】シリーズ 第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。

      http://amzn.to/13kpNqM


※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、次の講座を用意しております。

◇孫子兵法通学講座
  http://sonshijyuku.jp/senryaku.html

◆孫子オンライン通信講座
  http://sonshi.jp/sub10.html
 
○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内
  http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi


※ご案内

 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

  http://kodenkarate.jp/annai.html