[戻る]
質問 日本民族が真に必要とする思想はなんでしょうか。  2006.11.15

<質問>

 孫子兵法の興味深いところは、単純に戦争というものを戦場で血肉飛び散る実力行使の対処法だけについて限るというものではなく、要は、謀略を含め、「脳」の正しい使い方を教示してくれているものであり、そのような質の高さと重厚な性格から、兵法書というよりは、国家戦略や政治を含んだ総合学習を身につけるための教本、という感じがいたします。

 世間では、凡そ、兵法と言うと、そのイメージからすぐに「軍と政治は無関係である」などといった分離的発想が尤もらしく定着しています。これは、(その軽佻浮薄な空虚さとは裏腹に実に)平和っぽくも潔く聞こえる、耳ざわりの良い一つのセリフであると思います。

 凡そ、戦争とは、千手観世音菩薩が千の手(あらゆる手段で)で迷える衆生をお救いになられる、ということの逆であって、どんなことをやってでも、それこそ千手以上にも及ぶやり方で多次元的に敵を倒すことをやらねばならないわけなので、そこには必然的に謀略も実力行使も全てを含めて考えなければならないと思います。

 孫子兵法を学ぶ際、(ここが本当に骨が折れますが)要は、一つ一つ、己の先入観とか思い込み、とかいうような言葉に表される分離的発想を整理しつつ、己自身を改めて行くことが、尤も重要なことと思います。

 このようなところから、孫子兵法は、他者に勝つ前に、先ず、己に打ち勝つこと、言い換えれば、正しき己の構築を基本に展開されていると考えても宜しいでしょうか。


<回答>

一、根本的・本質的な問題解決を苦手とする日本人の民族的欠陥。

 まさにご理解の通りであります。とりわけ『兵法書というよりは、国家戦略や政治を含んだ「総合学習」を身につけるための教本…』というご認識は秀逸であります。

 日本人に尤も欠落しているのは孫子に代表される大陸的発想たる分析的思考であり、弁証法的思考であります。要するに、物事をキチンと原理・原則で考えらないという悪癖であります。

 ゆえに、何かことが起きても、「誤魔化し」の別名である、いわゆる「和を以て貴しとなし」を得意とし、「まあまあ、なあなあ」で問題を先送りするだけという体質が日本社会の普遍的現象となるわけであります。

 誰かが、何とかしてくれるだろうと言うわけであります。国で言えば、積もり積もった国家財政の赤字、年金、道路公団問題、官僚による公金横領とでも言うべき目を覆うばかりのお手盛り行為等々、会社組織で言えば、彼の山一證券倒産に代表される典型的な問題の先送り等々、枚挙に暇がありません。

 先輩(先代)たちによる、このデタラメのツケが溜まった結果として様々な不祥事が後輩(後代)たちのある時期に噴出するという構造が日本の社会の実態と言わざるを得ません。

 この本質的構造にメスが入らない限り、日本人自身による自浄努力など期待できないの日本人社会の特徴なのです。彼の日産のゴーン社長が成功したのは、まさに日本人には逆立ちしもマネできない外人的発想のゆえと認識すべきであります。


二、日本民族に今、最も求められている思想は孫子である。

 言い換えれば、戦略的発想が出来ないのが日本人なのです。反面、下士官的資質においては世界に冠たる優秀民族の日本人であるゆえに、真に学ぶべきものは大陸的発想の代表的哲学である孫子と言わざるを得ません。これができればまさに日本人にとって「鬼に金棒」となるのであります。

 まさに孫子こそ、日本人が最も不得意とする分析的思考・弁証法的思考の最たるものだからであります。ゆえに、弁証法的唯物論者を自認していた彼の毛沢東が、はたまた、苛烈な戦国の世を生き抜くには分析的思考・弁証法的思考がキーワードであることを悟った武田信玄が孫子を愛読したのです。

 日本で原理主義と言えば、彼のイスラム原理主義を想起して必ずしも良いイメージはありませんが、基本的に朝鮮・中国を初め、中近東・西洋の大陸諸国は全て大なり小なりの原理主義が基調であることは常識です。

 その意味で日本人ほど己を知らない民族は居ないと言わざるを得ず、島国たる立地条件の負の要素ということであります。そのゆえに孫子を良く勉強し、その哲学を自己の骨肉と化したとき、まさに日本民族は名実ともに世界に冠たる存在になることは疑いようもありません。

 皆がやれば自分もやる、皆がやらなければ自分もやらないというのが日本人の特徴であります。しかし、真の自己変革のためには、そのようなあいまい、かつ情緒的な思考法は間違いであると気付くことがまず必要であります。何が正しく、何が正しくないか、そうゆう普遍的な原理・原則をもって思考すべきことが重要なのです。


三、なぜ、明治維新のサムライ達は堂々と世界の列強と渡り合えたのか。

 日本人が憧れて止まない、かってのサムライ達は皆、武人の必読書たる孫子を愛読し、四書五経を読み、その原理に従って行動したのであります。

 言い換えれば、彼らの根本には確たる原理・原則が貫かれてたのであり、その意味ではまさに大陸的発想たる原理主義者であってわけであります。ゆえに、明治維新の原動力足り得たのです。

 日本人はまさにこのような良き伝統こそ、真に継承すべきであります。あたかも浮き草のごとく、情緒的な大勢の趨くままに流されるのは確かに心地良いことかも知れませんが、日本民族の将来、そして我々一人一人の将来を見据えれば不幸の源と言わざるを得ないのであります。


※【孫子正解】シリーズ第1回出版のご案内 

 このたび弊塾では、アマゾン書店より【孫子正解】シリーズ 第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。

      http://amzn.to/13kpNqM


※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、次の講座を用意しております。

◇孫子兵法通学講座
  http://sonshijyuku.jp/senryaku.html

◆孫子オンライン通信講座
  http://sonshi.jp/sub10.html
 
○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内
  http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi


※ご案内

 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

  http://kodenkarate.jp/annai.html