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質問 孫子は判断力や思考力の養成に最適であると考えますが。   2006.11.22

<質問>

 まず、現代日本人の一般的傾向として、平和憲法の精神だとか、他人へのいわれなき暴力は反対だとか、学校・職場などでのいじめや差別は人権尊重の立場から絶対に許さないなどというような、頭の中で自らが社会的な常識人あるいは善人たらんと思っている想念(ヴァーチャルの世界)があります。

 一方、現実(リアルの世界)においては、実際に自己保存のために無意識に、あるいは本音とタテマエは違うと言いつつ、平気で利己活動を実践展開しているというのが偽らざる実態であります。
 両者はまさに矛盾そのものですが、問題はこの矛盾を解決もしくは処理できずに、一種の精神分裂の状態に陥っているということにあります。

 言い換えれば、異常な精神状態と異常な人生生活を、自他ともにチェックする意志も機能も喪失してしまっているのが現代日本人の特徴であると思います。逆に言えば、深刻な問題が発生しているにも関わらず、然るべき具体的な善処策が期待できないということになります。

 たとえば、職場などでも権勢を振るっている人に、間違っていますよとでも言えば、本当は是正するべきところを、かえって悪い点を糊塗した上で、不利益変更の待遇をされて、馬鹿よばわりされ、追放されるがごとしであります。

 言い換えれば、改革するべき立場にあるリーダーが、(ただ自己保身のため)自らの地位と立場を悪用して、何も問題など起こらなかったように巧く処理する・隠蔽するという恥知らずが平然と行われているのが現代日本社会の偽らざる風潮であります。

 このことは、昨今の官公庁や企業の不祥事を見ていて如実に観察できる共通点であり、まさにこの点こそが、日本社会に充満する言葉に表現できない違和感であり苦しみであると思います。

 そのゆえに、このような似非(えせ)リーダーにとって、現状変革とは何か、リーダーはいかにあるべきかを論ずる孫子兵法というものは、非常に苦痛であり、恐怖でもあり、一種のタブー(思考外の事象)のように感じているものと思います。

 逆に言えば、このようなリーダーの跳梁跋扈を許しているということは、そのようなリーダーしか生み出しえない日本社会の在りようが問われるのであり、まさにここに問題の深刻さがあります。

 このような好ましからざる現状は、日本国民のレベルの低下、もしくは劣化・脆弱化と言わざるを得ず、まさに国家存亡の危機になっていると思います。

 このような時代のゆえに、こころある日本国民は、挙(こぞ)ってリーダーの書たる孫子を学ぶ必要を感じます。このことにより、しっかりした良識のある国民の醸成につながり、ひいては、日本の真の発展に資するものと考えております。以上の点についてご意見をお聞かせください。


<回答>

1、旧秩序が崩れる動乱の時代こそ孫子兵法の出番である。

 まさに言われる通りであります。(ことの良し悪しは別として)一昔前なら笑って済ませるようなこと、あるいはおよそ話題にもならないようなことが次々と問題視されたり、一昔前ならあり得ないような出来事が日常茶飯事的に生起しているのが現実であります。

 言葉を換えて言えば、戦後半世紀以上に亘って日本を支配してきた社会制度が新たな時代の波に適応できずにあちこちで破綻を見せ始め、その矛盾が様々な形となって噴出しているということであります。

 このような動乱の時代、あるいは先行き不透明な不安の時代を乗り越えるバックボーンとしては、まさに孫子に優る思想は無いということであります。

 旧体制の秩序を維持し、現状の変革を望まぬ人はともかくとして、何らかの形で新しい時代の波に乗ろうとする人は、まさに孫子がその羅針盤になるということであります。

 そのような人がひとりでも多くなればそれだけ日本の社会は旧来の閉塞的・陰湿的なイメージを脱し、ダイナミックに躍動する進歩発展的な思考が主流となってゆくことでありましょう。

 要するに、(口先だけでなく真に)柔軟な思考のできる頭にならないとこれからの時代は乗り越えられないということであります。


2、動乱の時代を乗り越えるには柔軟な思考が不可欠である。

 その柔軟な思考は天から降ってくるのでも、地から湧いてくるものでもなく、みずからの頭と体を使い、血と汗と涙を流してみずから獲得してゆくものであり、それ以外にやりようがないということであります。

 要するに、他人の頭ではなく、自分の頭を使って事の本質を考えるということであります。

 ここのところを誤解している人が多いがゆえに、まさにご質問者さまのご指摘のような腑抜けの人間が目立つのだろうと思います。

 このままでは世界に冠たる日本民族の将来も危ういものと言わざるを得ません。吾人が孫子を学ぶ所以(ゆえん)であります。


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