サブ・テキスト
(武岡 淳彦 監修 佐野 寿龍 校註 「孫子兵法」)の内容
(序文にかえて・体系図より)
序文にかえて
孫子は 二千五百年前の兵書であるが、兵書というよりも政治、外交、企業管理、技術戦略、ビジネス競争、スポーツなどの指南書としてのほか、庶民の処世の智恵袋として読む人が多い。
孫子がそのように高い評価を受けるのは、複雑に見える自然界から、戦争という事象を通して、社会の仕組みや人間の本質を抜き出し、世の中を生きてゆくための原理原則を教えているからである。
そのせいであろう。孫子の名言の中にはすでに日本のことわざになって、日本人の心の中に溶け込んでいるものがある。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」「始めは処女の如く後は脱兎の如し」「風林火山」「呉越同舟」などである。
日刊工業新聞によれば、平成二年、アメリカでは孫子の勉強会などのグループが百あったという。いまも企業人の経営方針などによくみられる。孫子が人間主義を根底とし、競争の基潮を力学的合理主義(ランチェスターの方程式)においているからであろう。
兵法経営の創始者・大橋武夫先生(※)は、孫子がややもすれば片言隻句の解説、皮相の解釈に止まっていることを憂え、私に後継を託されるとき、「孫子の特徴はその中庸性にある。事の本質をつかみ、無理のない勝ち方をせよと述べている。君は兵法の研究を孫子一本に絞り、日本人がその道を誤らない孫子の解説書を書いてくれ」といわれた。
私はこの恩師の遺言に則り(のっとり)、自らの四年間に及ぶ実戦体験と兵法の研究を基盤に、すでに四冊の孫子解説書を世に問うた。本書の著者佐野寿龍君は、拙宅に数年通い、その炯眼(けいがん)をもって孫子の奥義を看破され、ここに「佐野孫子」を著した。是非一読を薦める。
平成十年八月一日
国際孫子クラブ代表
武岡 淳彦
※元東部軍参謀、陸軍中佐。終戦後は企業経営、経営評論活動のかたわら、古今東西の兵書・戦史の研究に没頭。「統帥綱領」「作戦要務令」「名将の演出」「状況判断」「兵法孫子」など著書多数。1987年没。