『脳力開発入門〈基礎篇〉』第3章 どのようにやるのか
3章−1 「3大実行方針」
@ 行動せよ
A 整理せよ
B 反復せよ
■根拠は多数の実施体験
私達の脳力開発について、その考え方、やり方の基礎になっている根拠や意義を理解していただくために、これまではずっと原理的な話をしてきたわけです。私達のやり方、考え方の根拠はたしかに大脳生理学といった医学面での理論を参考にしています。しかし、もっと大きな根拠の裏付けというのは、大勢の人の実際的な実施体験にあるのです。私達は10年を越す期間の実施やテストを経て、基本的な確信を得るに至りました。多くの人が、精神面でも、思考面でも、知識面でも相当な成果を示し、人間の総合力をどんどん発揮するような進歩を遂げています。それらの過程や結果を総括して、整理したものこそ、この本の内容であり、ほかのテキストブック類の内容であります。さて、その経験と理論的整理にもとづいて、具体的に「どのようにやったらよいか」「どうした方がよい結果につながるか」という点をこれから略記していきたいと思います。
■やり方の趣旨は
幸いにも、脳の素材としては万人平等であるし、易しいやり方で地道に繰り返しさえすれば脳細胞回路は確実に変わって、どんどん実力を発揮するのですから、まさしく「誰でもできる」ところが脳力開発のよいところです。せっかく誰にも易しくできるものをわざわざ難しく考えてしまって特別なことをすることはないのです。それに、同じやるなら苦痛にみちてやるよりも、やるべく楽しんでやった方がよいに決まっています。そういう考えから出発して、だいたい次のように意識して進めれば結構かと思います。
・誰がやるのか?
当然あなた自身がやるのであります。他人はやってくれません。ただ、自分がぐんぐん進めて行くのがあくまで軸だけれども、人にアドバイスしてもらうこと、他人の例を学ぶことなども副として必要です。
・いつどこでやるか?
これは無制限です。いつでもどこでもできます。毎日の仕事、家庭、友人付き合い、文化活動、趣味、娯楽、スポーツ、休息、あらゆるものがそれの「場」になります。
・何を対象(材料)に扱うか?
これも全く無制限。ありとあらゆるものが対象になります。あなたが毎日ぶつかっている問題や新しい目標への挑戦などの材料が最適です。それから、周囲の人が直面している問題もよい対象になります。新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどももってこいの材料を提供してくれます。なるべく身近な材料やテーマが血や肉になりやすいわけですが、国際情勢とか国の政治経済といった複雑膨大なものも大いによい対象なのです。また、技能や各種作業、あるいは免許ものといったものも重要な対象であります。運動神経を使って結果を出す分野も結局は脳の使い方の勝負になってきます。
・なぜ、やるのか?
これまで説明してきた内容がまさにその説明であったわけです。
・何をどのようにやるのか?
この本のこれから先は、ぜんぶそれの説明になるわけですが、私達は独自の「指針」の群をそのガイドとして用意しています。私達のやり方では、つまるところ、とにもかくにも「指針」を十分に使うというところに中心的な特徴があるのです。その際に、次のような「3大実行方針」を根本においています。
@指針に忠実に行動し、実践する。→行動せよ!
A指針に戻って整理し、修正する。→整理せよ!
B指針に従って反復し、継続する。→反復せよ!
これが、私達の方法上の中心的にほかなりません。「行動」と脳力との重要なかかわりについてはすでに説明しました。また、「反復」ということの重要な意義と必要性についても何回も触れてきました。「整理」という件については、まだこれまでよく説明していませんが、これは脳細胞回路(特にプログラム=命令部)の再整備にとって欠かすことのできない決定的に重要な実践の土台です。つまり、整理の仕方に応じた脳細胞回路が脳の中につくられていくからです。「整理」という仕事については次章で少し詳しい説明を加えます。行動せよ、整理せよ、反復せよ、という「3大実行方針」はどのひとつも欠かせないのであって、全部そろわないと脳力開発の根本にせまれないという点をしっかり頭に入れて下さい。
3章−2 「補助の実行方針」
@指針はできるだけ覚えようと思うな
Aともかく頻繁に指針集を開け
Bわかりきった指針でも改めて使え
■「指針」とは
指針というのは、難しく言うと「普遍的な原理・道理」ということです。つまり、それ自体はまだ具体的な問題に対する具体的な答ではなく、物事に共通な本質をごく短い言葉でパッと表現しているだけのものです。だから当然、一般的でかつ抽象的になります。指針を言葉で覚えるだけのことならまことに簡単ですが、それだけでは実際的な働きは何もしてくれません。そのかわり、指針というのは何にでもあてはまる大もとですから、いざ「使いこなせる」ようにさえなれば絶大な偉力を発揮します。指針というのはそういう性質のものですから、「使いこなす」ことが絶対条件であり、そのたけには頻繁に「意識にぶつける」必要があります。
■暗記した指針は使わない
その根本からして、指針を「暗記する」という方式はひどくまずい結果になります。というのは、「 暗記した指針」というのは実際には使われない結果になってしまうからです。人間、十分に暗記してしまうと、十分に知りつくしているつもりになってしまうものでして、そうなると人に言われても、何かで読んでも「そんなことはとうに知っているよ」と思い込むだけです。まして土台になる基礎部ほど極めて平凡で、当たり前なものですから、「今さらそんなこと言われなくたってわかり切ったことだ!」と腹立たしく感ずるくらいなものです。そして、結局のことろ指針は意識からはずされてしまい、忘れられるという形になります。つまり、いざそれを必要とする状態におかれた肝心な時に何にも使われない運命となるのです。
■徹底して指針を使う
それでは、どうしたらいいでしょう?まず、気持ちのもち方としては「指針はできるだけ覚えようと思うな!」をルールとします。これは、実行方針の補助項目の第1項です。その上で、できる限り必要な時に「意識にのぼらせる手段」を工夫します。私達はそのために「指針集」(持ち歩き用ハンドブック)を十分に使うやり方をとります。つまり、トレーニングしようと思う時にも、あるいはちょっとしたことがあった時にも、そして何にもない時ですら「ともかく頻繁に指針集を開け!」です。これは、補助項目の第2項です。そして、そこに書かれている指針は、たとえもう知りつくしているはずでも、あえてまた見直すように癖をつけるのです。そのたびに必ずヒントになったり、新しい角度に気がついたりするからです。この「わかりきった指針でも、改めて使え!」というルールは補助項目の第3項です。さて、こんなふうにして、まさに「指針集を片手に」という感じで実行するわけですから、指針集はいつでも身に付けている必要がうまれます。何かに追われている時には「そんなことをしいる暇などないぞ」と思われるかもしれません。ところが、ゆっくり考えたり整理したりしてい暇がないほどに混乱している時こそ、本当に指針の必要な時であり、指針集を開くべき時なのです。このように、指針を使い、指針に戻るという徹底した実践が私達のやり方の基本であります。この動作はとても簡単なのですが、それでもめんどくさがる人がいます。しかし、その程度の労を惜しんで脳力をもっと発揮したいと願うのは、少々虫がよすぎるというものです。
■ポケット指針集
それではその「指針」の中身は何だ?ということになってきます。実はこの本自身もひとつの指針集であります。そのためにこの本はポケット版にしてあるわけです。この本に続く応用編等も全く同様です。この本の中から、あなたにとって役立ちそうな部分は指針として働かせることができます。その場合、あなた自身の整理と工夫によってうまく活用していただくのが一番望ましいわけです。この本を作っている側からの一方的なハラづもりで言えば、この本の中の特に太字(濃い文字)の文章には集約した指針の意味をもたせています。特に、目次は指針項目が集約されている所です。
■指針集を開いてみる癖を
忙しい時や、何かに取り組んでいる最中や、討論している最中などは文章を読んでいる暇がないわけです。その場合は「読まずに見る」だけでよいのです。どれでもよいから短い指針をパッと見て、それで改めて考え直すという使い方で結構です。こういう時には「指針項目」の方が便利なので、私達はそのために、説明ぬきの、指針項目だけびっしりと集約した「脳力開発指針集」を別途に発行しています。(付録参照)これは、ふだんいつも身に付けて使いこなすのに便利なように工夫してありますので、ぜひご活用下さい。
3章−3 「指針の使い方」の模倣から始めよう
脳力開発とは基本的な習慣をつくること
■別途、実例集で
次に、実際の対象に対して具体的にどう指針をもち込んでいくのか?という問題になってきます。これは、総論的な解説だけではなく、たくさんの具体例のケースで適用例の説明を重ねていかないことにはなかなか感じがつかめないでしょう。しかしながら、そういう実例の解説をこの本やそのほかのテキストに書くのは紙面の都合上からとても無理です。そこで私達は「実例集」としての「ケース・スタディ・シリーズ」を別途に編集して発行しています。ぜひそれを十分に活用して、実際の感じや細部についてつかんでいただきたいと思います。それで、ここでは方法上のいくつかの補足点だけ書いておくことにします。
■基本回路は模倣でつくる
まず、最初は模倣から始めるべしという点です。よく世の中では、「まね」をばかにする傾向がありますが、なんでもかんでも「まね」はまずいのだという考え方はまちがいです。脳の本質からいって「まね」の行動部分なしには何ひとつできなくなってしまいます。赤ん坊の成長過程をよく観察されるとわかりますが、ほとんど全部がまわりのことをまねすることによって実践し、それで自分の脳細胞回路を自らつくっていくのです。赤ん坊はえらいもので、耳で聞いた言葉を自分のものにしていくために、それに自分をまず反応させてみて、それに対するまわりの人の反応をちゃんと確認することによって正しい理解と把握をしていくのです。それで言葉をどんどん覚えていきます。ほかの様々の行動もみな同じです。それが実践です。脳というのは猛烈な模倣の実践をやっていきながら、最初の基本回路をつくりあげ、それを元手にして次第に程度の高い創造的な思考や行動もできるようになっていきます。実際には、それ以外にとりようがありません。脳力開発の展開もその進み方でよいのです。ただ、大人の場合は基本的な思考力がすでにあるのですから、表面だけまねるのではなく、奥の方の本質的なことをまねるべきです。これは要するに「指針の使い方」をまねろという意味になるのですが、そういう意味の「まね」をどんどな反復しないと根本的な回路整備が進みません。
■脳細胞回路と「習慣」
さて、これまで盛んに「回路」という表現を登場させてきたわけですが、これは物理的、原理的な観点から根本を理解するために必要だったからです。ただ、日常的な身近な感覚からすれば「回路」などというのは分かりにくい相手だと思います。それに、回路づくりとかその変更とか言ったところで、頭を手術して中をどうこうするわけでもないし、顕微鏡でのぞいてみるわけでもありません。ですから、通常の実践のレベルではもっと日常感覚的にとらえやすい身近な表現が必要になります。そこで一番適切なのが「習慣」という表現であります。「脳細胞回路」とはすなわち「習慣」であると考えれば実感として分かりやすいでしょう。こうなりますと、「脳力開発とはすなわち習慣づくりである」ということにもなってくるわけです。つまり、言いかえますと、前述の「3大実行方針」の徹底した実行のもとに、指針の使い方をまねしながらそれに応じた基本的な習慣を築いていくのが脳力開発のやり方なのであります。これは行動としてもとてもつかみやすいし、また、「質的」にはかなり簡単な話になってきます。習慣の操作ならば、通常の意志でコントロールできる範囲にありますから、決して自分の意志と努力でどうにもならない難しい種類のものではありません。ごく当たり前の日常努力ひとつで決まることです。ただ、「量的」には、たんねんな反復がどうしても必要になるので、ものぐさな人は心すべきです。
■集まってやることに意義
脳力開発の実施は、あくまで自分自身が毎日毎日、地道にやっていくことを絶対的な柱とします。しかし、自分一人だけでやっていくと、どうしても忘れたり偏ったりしてきます。だから必ず仲間(どうし)が必要なのです。仲間どうしが集まって行う実施も、また大変な効果があります。集まってやろうとすること自体が強力な行動であり整理にもなり、同時に反復のための大きな助けになるわけです。
■人にわからせる実践
またさらに、周囲の人に脳力開発をすすめてわからせていく行動努力もとても重要です。それは相手にとって大変利益になることですが、それ以上に自分自身にとって利益になるのです。何より、この努力によって一番力がつきます。と言うのは、人に本気で分からせようとする水準になってくると、単に暗記した言葉を羅列する程度では役にたちませんから、本格的な行動になってきます。これはまさしく脳力開発の強力な実践であって、そういうことをしないのに比べれば、はるかに大きな進歩を遂げることになるのは当然です。こういう実践活動は自分の進歩にとって欠かすことができません。そしてまわりの人々や社会に対して直接的に利益になるのですから、これは素晴しいことではないでしょうか。
■進歩、成果を測る
これまでの多数の人々の経験と成果を見てみると、脳力開発による進歩はじっくりじわじわとしたものであるけれども、それだけに安定したゆるぎない成長です。だからこそ本物だと言えるのでしょう。人間内部の本当の変化とか成果というのは、外から見てふたつのことで測定できます。ひとつは、その人の「行動」の変化ではかられます。いくら格好いいことを口にするようになっても、これは、本物の変化とは全然別のことです。もうひとつは、周囲の人からの反応です。周囲の人はなかなかちゃんと見ていますから、本物の変化を遂げないと、それに応じた本当の反応は示しません。だからこの面から正確な測定や確認ができます。
■忠実にやる人の勝ち
最初の段階は特に、ゆっくりした歩みに見えるというより、全く変化がないようにさえ見えます。ところが変化の兆しが、まず他人に感じられるようになり、その後やって自分自身で自覚できるだけの進歩になってくるわけです。そうすると楽しみながら実践できるようになりますからだんだん波に乗り、加速度がついてきます。もっともそれは、地道に不断に実践を続けてきた人達のことであって、途中でやめればそれっきりです。問題は、自分で進歩が自覚できるくらいになるまでの期間です。そこが壁でありますが、それをこすと後は流れだします。この期間をどう続けるか、そこに勝負がかかっているといってよいでしょう。これまでの多数例の集積から言うと、あれこれと理屈にこだわらず、まずともかく「指針に忠実」に徹底的に実行した人こそもっとも進歩発展の大きかった人であります。これについては歴然とした結果が出ています。