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質問 五事と七計、それぞれどう違うのでしょうか。  2008.4.21

<回答>

 この質問はどうゆうわけか過去にも何回かありました。例えば、2005.11.14:「いわゆる五事と七計とはどこが違うのでしょうか」、2005.12.5:「五事とはどのようなことを分析・検討するのでしょうか」などです。そのゆえに、今回は角度を変えてお答えしたいと思います。


 まず、孫子を学ぶ場合は(いわゆる漢文の勉強ではなく実践を大前提とする兵法の勉強ですから)単に文字の字面を追うのではなく、その文字の背景に流れている思想をどう理解するかということが重要です。そのためにはそれを解読するための思考法が必要になります。

 それには色々ありますが、とりあえずは生活者としての考え方、言い換えれば「戦う人」としての自覚が重要となります。兵法とは言わば戦いの法ですから、我々もまた戦闘者たる立場を自覚しなければ、孫子と同じ目線に立てないということ、言い換えれば孫子が理解しづらいということになるのです。

 また、戦いは激烈な実践行動でありますから、本を読んだり、花を活けたり、お茶を飲んだり、詩を作ったりするようなこととは本質的に異なります。ゆえに孫子を読む場合は、常にこの実践・行動という観点を外してはならないということであります。

 いわゆる、「孫子読みの孫子知らず」のおかしなところは、自分は暖かい部屋の中でぬくぬくしたコタツにあたりながら、(その立場に気付かずに)あたかも自分が外の厳しい雪景色に中にいるかのごとき錯覚を起こしている点であります。


 であるとすれば、孫子は単なる読みものとして読むべきであり、そうでないとするならば、(頭だけでものを考える思考法を改め)まず、暖かい部屋のコタツを飛び出し、外の冬景色の中に身を置くシチュエーションを(実感として)想定すべきなのです。

 それはさておき、孫子の有名な巻頭言は一言で言えば、戦争は国家の一大事であり、かつ不可避のものだからそれに対する万全の対策を平素から準備せよ、と曰うものであります。

 (それを受けて)では平素の軍備を万全にするのに必要不可欠な要素は何かと言えば、それが五事であるというのです。逆に言えば、五事以外の要素は不要であるということです。その意味での五事であります。


 とはいえ、その五事を知れば(それを知識として知ったというそれだけで)「これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず」と言えるのかと言えば、戦闘者の感覚で言えば、答えはもとより「否O」であります。そうゆうことは有り得るはずがないのです。

 たとえば、受験戦争という意味での戦いにおいて、合格するための勉強の範囲・方法・必要時間・健康管理などすべての条件(言わば五事)を知悉していたとしても、それを実行しなかったならば何にもならないのと同じことです。

 要は、戦争が起きる前にどれだけの準備ができたのかという事実の積み上げの問題であり、言い換えれば、当事者の実践と行動の問題であり、(知っているとか知らないかの)単なる知識の問題ではないのです。

 従って、五事とは、平素軍備を治むるための五つの基本的要素ということになります。当然それは相手も実践するものであることは論を待ちません。

 そして、いざ戦争が避けられないという事態に立ち至った際、初めて(客観的事実としての具体的な)彼我の優劣・特質などを計算する必要が出てくるのです。これが「七計」です。

 ただし、この「七」という数字は原文にはありません。「五事」も竹簡孫子には単に「五」とあるだけです。つまり「七計」は単に例示と解すべきであり、その比較・計量する方法を「七」と限定すべきではありません。
 それを理解した上で説明の便宜上、五事七計とすることは差し支えないと思います。


 ともあれ、五事と七計はその性質が異なるものなのです。両者の違いが分かれば「彼我優位の見比べも五事でできないのかどうか疑問です」はおのずから氷解するものと思います。

 従ってまた、通説的に言われているような「五事で基本戦力を調べ、七計で彼我優位を見比べる」は論理的に矛盾すると言わざるを得ません。

 たとえば、五事は受験勉強において合格するためは絶対必要な条件・要素を列挙したもの、いわゆる七計は、入試本番に先立ち(それまで培われてきた)各受験生の実力を試す統一模試のようなものと置き換えることができます。

 つまり、五事で各受験生の基本戦力が測れるわけがないのです(五事は単なる条件・要素にすぎず実践したか否かとは直接関係ないからです)。

 測るとすればやはり(本番前に行われる)統一模試のごときものと言わざるを得ません。(戦いという事象に関し)現代もなお孫子が読み継がれている所以(ゆえん)であります。


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