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質問 孫子に曰う「亡国」の背景について教えて下さい。  2009.8.18

<回答>

一、国とは何か

 一般的に、国とは、国土・国家の意であり、ある政体のもとにおける土地と人民の意と解されます。字源的に言えば、国とは、杭をたてて、または武器で守って境界を設けた地域の意とされます。


二、国を維持する四本柱とは

 これについて「管子」は以下の四項目を上げております。

1、「礼」
 人々が節度や身分を越えた行動をしないこと。これにより、人々の上に立つ君主の身分が安泰で、社会の秩序が保たれる。

2、「義」
 人々が自分を目立たせて出しゃばることをしない(自分を実際以上に見せびらかさない)意。これにより、民間に誤魔化しや偽りがなくなる。

3、「廉」
 人々が自分の過失を覆い隠さないこと。これにより、人々のすべての行動は自然に完全となって不正はなくなる。

4、「恥」
 人々が邪(よこしま)で心のねじけた不正な人物につき従って行動しない意。これにより、人々が徒党を組む悪事も起こらなくなる。


 この四本柱について「管子」は、一本が倒れると国家は傾いて安定を失い、二本が倒れると国家は危険な状態となり、三本が倒れると国家は転覆し、四本が倒れれば国は滅亡すると論じております。

 そして、国家が安定を失った場合、危険な状態に陥った場合、また転覆した場合においては、それぞれ、正常な状態、安全な状態に引き戻したり、また(転覆したものを)建て直すことはまだ可能であるが、国家がひとたび滅亡してしまった場合には、もはや二度と元の状態に戻すのは不可能である、と断じています。

 もとより、そのシチュエーションは異なりますが、上記の亡国と、孫子の曰う『亡国は以て復た存す可からず』<第十二篇 火攻>とはまさにその趣を同じくするものと解されます。


三、国家における不敗の態勢づくりとは

 上記の四本柱の観点は、戦争が始まる以前の国家の不敗の態勢はいかにあるべきかの土台を論ずるものであります。

 言い換えれば、君主たるもの、平素から上記のごとき方針をもって民を教化し、その上で、民の心に順応する政治、即ち、民の生活を豊かにし、民の生命の安全を守り、民の家族や子孫の養育を図ることに努めるべし、ということであります。

 このことを孫子は『令、素より行われて、以て其の民を教うれば、則ち民服す。』<第九篇 行軍>と論じおります。

 さすれば、国家に一朝ことあるとき、まさに孫子の曰うがごとく『道とは、民をして上と心を同じゅうせ令むるものなり。故に、之と死すべく、之と生くべくして、民詭わざるなり。』<第一篇 計>の態勢が期せずして出現することになります。

 つまりは、『令、素より行わるる者は、衆と相得るなり。』<第九篇 行軍>ということであります。

 国が滅亡する場合は、内部崩壊によるもの、敗戦に起因するもの、もしくは両者の組合せによるものがあります。いずれにせよ、衆心を一つにし、衆心の願い望むところに順応し、その上で、いわゆる富国強兵策を講ずることが国を維持する基本となります。

 然らば、それで国家は安泰かと言えば、答えはもとより否、であります。そもそも戦争は抑止できないし、軽率な戦争を自ら惹起する場合もあるからです。

 そのことを踏まえ、自国と敵国を多角度から考察し、いかにして自国の生存を図るかを論じているのが孫子です。例えば、『此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。』<第十二篇 火攻>の国は自国の意であり、『国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』<第三篇 謀攻>の国は敵国の意となります。


四、個々人の場合の不敗の態勢づくりとは

 有機的組織体という観点から見れば、国家も個人も原理的には共通しております。つまり、国を維持する四本の柱たる「礼・義・廉・恥」は不敗の態勢づくりの根幹としてそのまま個人の場合にも適用されると解されます。

 「頼りになるのは自分だけ」という今日の厳しい現実を生き抜く指針として孫子が読まれている所以(ゆえん)であります。

 とは言え、あくまでも孫子は言わば「基本ソフト」であり、「応用ソフト」ではありません。巷間、この辺りがかなり誤解されており、甚だしいものは「問題解決のマニュアル」のごとく解するものも散見されます。

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