第22回 孫子兵法の「兵法」の読み方について教えてください2012.12.14
<ご質問>

 孫子の兵法ですが、世間では孫子の「へいほう」とも孫子の「ひょうほう」とも言われております。一体、どちらが正しいのか、はたまた、どちらが一般的な読み方なのか、ご教示ください。

<回答>

兵法は「へいほう」とも「ひょうほう」とも読まれますが、読み方による意味の違いはもとよりありません。ただし、次のように言うことはできます。

1、「兵法」にはなぜ二種類の読み方があるのか。

 言わずもがなのことですが、兵(ひょう)はいわゆる呉音読み、兵(へい)はいわゆる漢音読みです。漢音は、中国・唐代の長安付近の音が遣唐使・留学生らにより伝えられたもので、古来、標準的な漢字音とされ、漢籍を読むには多く漢音によります。例えば、行(こう)・京(けい)・明(めい)の類です。漢音が日本に入ってきたのは平安時代の初めのころです。

 一方、呉音(中国・長江の下流、現在の江蘇省南京市の辺りとされる呉の音)は、その以前の数百年間に伝来したものと謂われておりります。

 つまり呉音の方が漢音より古いわけですが、それは朝鮮・対馬経由で間接的、かつ不連続的にバラバラの形で入ってきたため、はたしてどれだけ正確に呉の地方の発音が伝わったものなのか甚(はなは)だ疑わしいという側面がありました。

 そのような事情の下、平安時代の初め、多くの留学生たちが唐の都・長安で直接的にキチンと学んできた漢語こそが正しい中国の発音とされたのであり、それまでの呉音はたいてい漢音にとって代わられましたが、それでも慣用上(主として仏教・医学・軍事などの分野)排斥されずに残ったものが呉音というわけです。

 当時の言わば正調中国語という意味では「兵法」は「へいほう」と読むのが正当であり、「ひょうほう」という読み方は日本独自のものということになります。

 因みに、兵法は、現代中国語で『ピンファー(Ping Fa)』と発音されます。当時の呉音や漢音の発音が現代と同じか否かはもとより知る由もありませんが、ともあれ、その当時の日本人は、呉の都・南京における発音を「ひょうほう」と、唐の都・長安における発音を「へいほう」と聞いたと言うことであります。

 
(2)江戸初期頃まで兵法(ひょうほう)は主として「剣術」の意であった

 日本の場合、「兵法」という言葉は、室町末期から江戸初期ごろまではいわゆる武芸、それも主として剣術の意と解されています。

 彼の五輪書には「この道において、太刀を使いこなせる者を兵法者(ひょうほうしゃ)と世間では謂っている」と。つまり、兵法者(ひょうほうしゃ)とはいわゆる武芸者(剣術使い)のことを意味していたのです。

 もとより、宮本武蔵も柳生宗矩も一対一の個人戦の技術と、いわゆる兵法(へいほう)という意味での集団戦(城攻めや用兵の法など)の技術を分けて論じてはいますが(たとえば五輪書では小の兵法・大の兵法)、そのような解釈は当時必ずしも一般的ではなかったということです。

 因みに、城攻めや用兵の法など集団戦闘における戦略・戦術の理論を内容とするいわゆる兵法(へいほう)は、日本では「軍学」と呼ばれておりました。ただし、この「軍学」の文字は漢籍にはありません(漢籍では兵学・武学)。つまり「軍学」はいわゆる「和製漢語」ということになります。


(3)後に城攻めや用兵の法は、特に兵法(へいほう)と称して区別された

 いわゆる武芸(個人技たる武術)に対して、集団戦たる城攻めや用兵の法などを特に兵法(へいほう)と称して区別するようになったのは、江戸初期以後のことと謂われております(例えば、甲州流兵法・北条流兵法・山鹿流兵法など)。

 言い換えれば、兵法(へいほう)という言葉が、上記の「軍学」の意味で用いられるようになったと言うことです。そのゆえに、戦国時代以来の兵法(ひょうほう)と、いわゆる江戸初期以後の兵法(へいほう)とは自ずからその意味内容が異なるということになります。

 一方、兵法の本家たる中国においては、(孫子兵法に代表されるがごとく)その概念は、古来、首尾一貫して変っておりません。その意味で言えば、兵法(Ping Fa)に対応する日本語の読みとして兵法(へいほう)が適当であると言えます。


※【孫子正解】シリーズ・第1回出版のご案内

 このたび弊塾では、アマゾン書店より「孫子兵法独習用テキスト」として 【孫子正解】シリーズ・第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。ご購入は下記のサイトできます。

      http://amzn.to/13kpNqM


※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。

◇孫子兵法通学講座
  http://sonshijyuku.jp/senryaku.html

◆孫子オンライン通信講座
  http://sonshi.jp/sub10.html

○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内
  http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi


※ご案内

 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

  http://kodenkarate.jp/annai.html

 第21回 中国人留学生からの孫子に関するご質問2012.10.24
<ご質問>

 はじめまして、私、中国人留学生で金と言います。孫子に非常に興味があります。そこで、お聞きします。
 サイトには、『因みに、大江匡房を家祖とする毛利家には漢の名軍師「張良」の兵法が伝わり、毛利元就がこれを駆使したことは広く知られている』とありますが、張良と孫子は何か関係あるのですか? 張良は、祖国では非常に人気あります。


<ご回答>

 「張良」について私が知っているのは劉邦の傍らにあった名軍師という程度のことくらいでそれ以上のことは詳しく知りません。ただ、両者の活躍した年代が違いますので、言われているような意味での何らかの関係は(当然のことながら)有り得ません。

 ところで、人物のレベルを判断する物差しとしては「ことの本質を洞察する力があるかどうか」ということが重要です。また、その力があったとしてもその洞察したところの本質を明確な戦略として打ち立て、かつ実行に移せる力があるかどうかということはさらに重要です。

 張良も劉邦の傍らにあって機知に富んだ戦略を駆使してその危機をたびたび救ったということは、まぎれもなくことの本質を洞察し、それを実行に移せる力があったということを証明するものであります。

 問題はそのような力をどのようにして身に付けるかということであります。実は、そのような正鵠を射た理念、それに基づく戦略、それを首尾一貫して遂行する指導力を学ぶ最も適切なテキストが孫子兵法ということであります。

 言い換えれば、「戦い」という事象の本質を洞察し、その体系を高度な抽象性を以てコンパクトに纏めている書物としては孫子の右に出るものは無いということであります。

 そのゆえに、(戦場に臨むものとして)張良も当然のことながら孫子を学び、その思想・抽象的理論を自家薬籠中のものとしていたであろうし、(本質を把握しようとする姿勢においては)たとえ時代は異なろうとも、その意味で両者はまさに知己であり、師弟であり、肝胆相照らす仲であったとは言えます。


※【孫子正解】シリーズ・第1回出版のご案内

 このたび弊塾では、アマゾン書店より「孫子兵法独習用テキスト」として 【孫子正解】シリーズ・第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。ご購入は下記のサイトできます。

      http://amzn.to/13kpNqM


※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。

◇孫子兵法通学講座
  http://sonshijyuku.jp/senryaku.html

◆孫子オンライン通信講座
  http://sonshi.jp/sub10.html

○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内
  http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi


※ご案内

 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

  http://kodenkarate.jp/annai.html 

 第20回 孫子兵法の学習法2012.5.1
 孫子塾卒業生で経営コンサルタントの濱本克哉です。

 今日は、少し孫子を学んだ経験者として、これから孫子を学ぼうとしている皆様へのメッセージを書きます。お役に立てれば幸いです。

 かつて、私もずい分、M屋氏その他の孫子本を読んだ経験があります。ところが何冊読んでも、なかなか力がついた気がしませんでした。

 なぜかと考えてみますに、
・勉強法がなっていなかった
 →表面だけなぞって頭で理解しようとしすぎ。
・体系の理解無し
 →孫子のそれぞれの言葉は1つの体系の中で語られているのに、それを無視 して、例えば「拙速だ、スピードが大事」などと言ったところで、小企業が 大企業に拙速に戦いを挑んだら、イチコロでやられる。
・漢文の先生が書いた本はどうしても観念の遊びになりがち
 →戦争のプロが書いた本を研究室にこもっている人が解説しても、深みに欠 ける

などが考えられます。
 第一、孫子が書いたものを誰かが解説したものを読んでも、その時点ですでにその誰かの本になってしまっています。キリスト教でどんどん教えがゆがんでいき、「聖書に帰れ」とマルチン・ルターが叫ばなければならなかったようなことが、東洋哲学でもあるんですね。

 しかしそうは言っても、相手は漢文です。文学部日本文学科を卒業した私もとっつきにくいです。(^_^;) で、そんなときに佐野先生の「孫子塾」に出合いました。おべんちゃらではなく、この塾は本気で孫子を勉強したい人にはいいです。

 世間の人の勉強は「孫子を勉強している」と言いながら、実はM屋氏、その他の孫子の研究家の思想を学んでいるに過ぎませんが、ここでは、佐野寿龍氏を学ぶのではありません。
 佐野先生はガイドに過ぎず(ものすごくすばらしいガイドです)、私たち自身が孫子の兵法に直接向き合うように、カリキュラムが作られているのです。
その意味で、このような本格的な講座は、おそらく日本ではここしかないと思います。

 あぁ、いつのまにか孫子塾の宣伝のようになってしまいましたが、孫子はそのように勉強しなければ、役に立たないと思うのです。孫子の「型」をきちんと学ばなければ、私たち個々が、それぞれに合った「形」にはできません。

 ついでに…。この掲示板を拝見していると、佐野先生はとても厳しい方に見えますが、教えるときはとても懇切丁寧に接してくださいます。レポートの添削を読んだらびっくりしますよ。それが楽しみで、私は2年間もレポートを出し続けました。私は先生に、「受講料が安すぎる」と訴えています。今、学ぼうとしている人には、余計なコトですが…。

 そんなことで、本気の方には強くおすすめします。まさに「郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず」<第七篇 軍争>ですね。長々と、失礼いたしました。またおじゃまします。


※【孫子正解】シリーズ・第1回出版のご案内

 このたび弊塾では、アマゾン書店より「孫子兵法独習用テキスト」として 【孫子正解】シリーズ・第1回「孫子兵法の学び方」という書名で電子書籍を出版いたしました。ご購入は下記のサイトできます。

      http://amzn.to/13kpNqM


※お知らせ

 孫子塾では、孫子に興味と関心があり、孫子を体系的・本格的に、かつ気軽に学べる場を求めておられる方々のために、以下の講座を用意しております。

◇孫子兵法通学講座
  http://sonshijyuku.jp/senryaku.html

◆孫子オンライン通信講座
  http://sonshi.jp/sub10.html

○メルマガ孫子塾通信(無料)購読のご案内
  http://heiho.sakura.ne.jp/easymailing/easymailing.cgi


※ご案内

 古伝空手・琉球古武術は、孫子兵法もしくは脳力開発をリアルかつコンパクトに学ぶために最適の方法です。日本古来の武術は年齢のいかんを問わず始めることができ、しかも生涯追及できる真なる優れものです。興味のある方は下記の弊サイトをご覧ください。

  http://kodenkarate.jp/annai.html
P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8
[編集]
CGI-design